豆乳

 一人暮らしをするようになってから専ら牛乳ではなく豆乳を買うようになった。一度開けてから2、3日中で飲みきってしまわないといけないのは同じだが、開けるまでは断然豆乳の方が日持ちする。賞味期限少しすぎた頃にあっと思って開封し、結局5日ぐらい後に半パックほど残った牛乳を泣く泣く捨てること数回、まあイソフラボンは大事ですし、とあっさり豆乳に乗り換えたのだった。時々やってくる「きれいなひとになりたい」という欲望に応えるという点でも豆乳は激しく推薦されていたため、最初に感じた多少の植物っぽさやこくのなさにも耐えることができたし割とすぐに抵抗なく飲めるようになったと思う。
 世の人はシチューだ鍋だと豆乳を主役ばりに大活躍させているようだが、私の実家ではほとんどホワイトシチューは出なかったし、豆乳鍋どころかそもそも一人鍋デビューを未だに果たせずにいる(これは早急になんとかしたい)。かくして私が買ってきた無調整豆乳(1L)はすべて飲料として3日+自分の胃腸を信じて2〜3日のうちに消費されることとなる。
 一番コンスタントに消費するのは朝のソイラテで、インスタントコーヒーを濃いめに入れたところに三温糖小さじしっかり一杯か蜂蜜しっかり目の目分量を混ぜたところに冷えた豆乳をコーヒーと同量入れる。一気に飲める温度、そしてそうしても惜しくないさらりとした味わいになる。ただし朝なので糖分だけは多い。これがほどよく温めてある豆乳だったり、あるいは牛乳だったりするとそこはかとないくつろぎ感が出てしまう。朝家を出る15分前、まだ着替えも化粧もしていない…そんなときにうっかりくつろいではいられないのだ。
 晩は晩で、昼間紅茶と緑茶のコンボをかましているのでもうお茶の類はいいや、というとき、うちにはジュースなどないので白湯がいやなら豆乳になる。これまた一日の終わり、ほっと甘いものでも…と当然のように甘味を追加。最近ではココアも調達し、小腹がすいたときのおやつ代わりにいただくこともある。
 私にとって豆乳とは、あくまで何かに入れたり甘みを味わったりするための脇役的存在なのであった。脇役なので濃い味は求めていない。以前「豆腐も作れます」という豆乳を買ったところ、作る飲み物がすべて「豆腐混ぜました」という味になってしまい使い切るのに苦心した。豆を全面に押し出してほしい訳ではないのである。隠し味、というほどぴりりと何かがきいてくるでもない。だけれども、いなくなると多分に困る存在なのだ。ブラックのホットコーヒーなんか朝から飲んでられないし、日中紅茶と緑茶一杯ずつ飲んだ後はずっと白湯で飽き飽きしている。
 今も妹にもらった小鉢とも茶碗とも言えない器に暖かい豆乳を入れ、少し甘くして飲んでいる。ほんのり甘みと豆の味がやさしくしみる。主役だけでは世界は回らないのだ。