お菓子

 私が小さい頃から、家には「お菓子のかご」があった。平面A4サイズ、高さ30cmぐらいの目の粗いスチールの網かごには少なくとも3、4種類、多いときはその3倍ぐらいのお菓子が常備されていた。多いのはビスケットとおかきだったように思う。小さい頃こそ母に出してもらっていたが、長じてしまってある頭上の収納スペースに手が届くようになると勝手に出して食べていた。母は、小腹がすいたら食べればいい、という考えだったのか、特に何も言わなかった。
 今は一人だし、なるべく買わないようにしていた。それだけでごはんになってしまいかねなくて良くないな、と思ったから。しかしたとえ15時に小さいお菓子と白湯で一息ついたとしても、働いて帰ってくるとどうやってもお腹が空いている。私はあまりに空腹がすぎるとただでさえ大雑把な料理ぶりがさらにひどくなり、手近にあったものを適当に炒めたものしか作らなくなる。あるいは空腹のあまり帰ってきて行き倒れてしまいかねないこともある。これはいかんな、と思い結局おやつを導入することにしたのがちょうど1年ぐらい前のことだろうか。しかし普通のお菓子じゃあ面白くない。せっかく一人暮らしなんだし趣味に走ろう。そう決めた。
 かくして、甘味についてはお土産物のようなものを常備するようになった。例えばテーマパークに行けば人にあげるのではなく自宅用に個包装のお菓子を数種類買い込むし、帰省した帰りは新大阪駅本高砂屋のエコルセを忘れない。重要なのはおいしさと見た目の綺麗さである。パッケージを開いてにっこりしてしまうようなものが望ましい。疲れているのは体だけではなくて、心もなのだ。テーマパークの楽しさを思い返せたりエコルセの美しい意匠で目を楽しませることができると、なんとかもうひと頑張りしてごはんを作ってみようか、という気にもなるのだった。
 まだ東京ではそんなお菓子に出会えていないけれど、この前お客様のところに勘で買って行った鎌倉のお菓子が大変好評だったのでそれを買ってみようかな、と目論んでいる。バラのマドレーヌが置いてあったので多分鎌倉ニュージャーマンだと思うのだけれど、買って行った葉っぱ型のざらめ砂糖がついた焼き菓子がホームページに載っていない…。どういうこと!?と一昔前の少女漫画ばりに顔が変わったので、おそらく週末は京王百貨店の洋菓子コーナーに出没するものと思われる。
 職場に買って行こうか、と1箱ぐらい余分に買うかもしれないが、結局ちまちまと家で食べてしまうだろう。そういう性分なのだ。誰か会社にお菓子のかごを作ってくれたら、入れてあげてもいいけれど。