しぼんでふくらんで

 急に今の派遣先の仕事とは全く関係のない仕事を振られたものの、諸々の事情により不安要素が多いことや勢いにのまれてしまい連絡ミスを犯していたことなどできりきり胃を痛めていた。眠れない、耳鳴りが増えるなどの典型的なストレス症状が出始めたが、一番驚いたのは食欲がほんとうになくなったことだった。
 朝は出社したくなくてぎりぎりにお布団から這い出しソイラテを飲むか飲まないか、昼はご飯1膳弱だけお弁当箱に詰めて持って行き、夜はもう何も食べる気がしない日が数日続いた。食べていない。ありえないぐらい食べていない。渦中にいる自分自身、異常さに気がついたのでどうにかしたい気持ちはあった。けれどもとにかく気力がなく作る気がしないのだ。かといって、毎食お弁当を買ってくることができるほど私は裕福ではなく、また胃もすっかり縮こまってしまい食物を欲していなかった。
 胃袋だけではなくそこらじゅうに異常を感知していたので、栄養不足で回らない頭ながらもなんとか作戦を立てた。お布団にはいっても眠れないのはある意味考える時間が増えて良かったのかもしれない。あるいは、そのために眠れなかったのだろうか。ともあれ、今日ようやく這々の体ながら連絡ミスを挽回した。体のこわばりは取れないものの、ほっとして「よかった」「まずはよかった」ばかりひとり呟いてすっかり冷めた紅茶をすすっていた。
 ふと、どういうわけか「たまごサンドが食べたい」と思った。
 「たまごサンド…コンビニで売ってるサンドイッチじゃなくってハードパンを表面こんがり焼いたところに半熟ゆで卵をつぶしてマヨネーズであえた具を挟んでいただきたい…冷蔵庫で死にかけてるレタスも食べてあげたい…!」と見る見るうちに夢がふくらんだ。それと同時に胃袋もふくらんで隙間ができたらしく、昨日は食べきれるかどうかと思っていたご飯では足りないような気がしてきた。まだあまり気持ちがすっきりしているとは言えなかったのだが、身体は正直であった。
 お昼休み、コンビニまで自転車を飛ばして迷った挙句カップヌードルを買った。それからアルフォートと、珍しくデザートドリンク。カップヌードルはたらこふりかけをかけただけのご飯と一緒に食べることとなり、どこの学生だと一人おかしくなった。デザートドリンクはぶどうのジュレだったけれど、ちまちまと昼休みが終わってからも飲み続け幸せな気分になった。アルフォートは15時の休憩に、後ろの席のおじさんや先輩方にも一かけずつお裾分けして、久々にみんなとおやつだなあ、なんて思った。帰ってきてからはちゃんと焼きそばを作って食べた。冷蔵庫の中に食材がないせいで具は人参とタマネギのみという貧弱さだったけれど、十分おいしかった。買い物に出て、週末は何を作って食べようか、なんて財布と相談しながら野菜をたくさん買って帰って、一息つくのに母にもらった健康茶を入れた。そういえば夜お茶をのむのも久しぶりだった。
 明日の朝は、もちろん、たまごサンドにしようと思っている。昼間コンビニで手が出かけたものの、やっぱりハードパンを夢見たからにはとがんばって自重したのだ。チーズも混ぜようかな?スープも作ろうかな?胃袋のふくらみは元のサイズ程度に収まったようだが、夢はまだふくらむばかりである。作ったら、何故たまごサンドだったのか考えながら(そもそもそう好きな食べ物でもないのだ)、ゆっくり頂くことにする。