4週28日の入院を振り返ってみる(2日目)

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なんとか眠れた、と起床点灯時に安心したのを覚えている。しかしこの日は試練であった。



気合で眠りはしたものの、一夜明けて痛みは増してきている。電動ベッドで背中の角度を変える分にはなんとかなるのだが、寝返りはとうてい打てそうになかった。

移乗ヤバイ。マジヤバイ。
10時頃だっただろうか、看護師さんが
「検査にいきまーす」
とストレッチャーとともにやって来る。CTとMRIをもう一度撮るという。しかし前述の通り、とにかく痛い。動かなくても痛いのに動かすんだから当然痛い。
とりあえず体勢を変えようと動くも走る痛み。百戦錬磨の看護師さん達はそのような状態であることを承知しているのか、まずは体の下にタオルを敷き、その後2人がかりでタオルごと持ち上げて移す作戦に出た。
しかしそうするには寝返りをうつか体を持ち上げなければならない。どうやったって股関節のあたりがぷらーんとなる一瞬は避けられない=激痛。「ちょま、ちょま…ッ」と口走りながらも結局よいこらせと持ち上げられてタオルの上へ、更にタオルを持ち上げられてストレッチャーの上へ。チョマテヨ!もいいところであるが、乗らないと検査できないのはわかっているので結構諦めつつ口走っていた。病室だったので、なんとか叫ぶのはこらえた。人の叫び声というのは聞いていて心が荒む。

心置きなく
からからと外来待合を通ってまずはMRIへ。移乗タイム再び。今度は病棟看護師さんと検査科技師の方しかいない!心置きなく
「アァーーー!」
叫んだ。叫びました。人間いたいとき、ギャー!とは言えない。アァーで精一杯。ほんとに。あんまり痛がったからか、MRI撮影後の移乗の際に検査科の方がバックボードを貸してくださった。持ち上げられるときに背中がしっかりするのでほんのすこーしだけ、叫び声が控えめになった。ストレッチャーに戻って次はCTへ。移乗と絶叫のコンボ再び。台に乗って何度か機械が動いたあと、
「次30秒ほど、息を止めておいてください。苦しいかもしれませんが…」
と案内される。もう今日の移乗は苦行モードで耐えているので30秒ぐらい酸素の供給が止まっても痛くも痒くもないよ!むしろ既に激痛だよ!!と心のなかでつぶやきながらじーっと呼吸を止めて撮影してもらう。バックボードは借りたままあと2回移乗して部屋に戻った。
大人になってから、痛くて泣いたのも叫んだのもはじめてであった。

折れてなかったけど折れてた
ベッドで放心していると限りなくスキンヘッドに黒縁眼鏡をかけた先生がやってきた。
「タニモトさん、折れてるねー。骨盤のあたり、2ヶ所」
あれ、大腿骨じゃないの?ぴらっ、と渡されるA4の紙。CTの結果だった。左の骨盤の後ろ側と、大腿骨がはまっている臼蓋という部分に確かにヒビが入っていた。退院まで1ヶ月、骨がくっつき始めるのに6週~8週、身体機能がほぼ元通りに回復するまで半年とのこと。
「手術してなおす方法もあるけれど、場所が場所だけにちょっと傷が大きくなってしまうんだよね…女性だし、若いからこのまま安静に治してもいいと思うよ」
そりゃ切らずに済むならその方がいいです!というわけで、一般的な保存療法でいくことにした。

父来たる
苦行タイムを終え昼食が来る頃、母が詰めてくれた荷物と共に父がやってきた。
「どうや」
「お母さん、ちょっとくるの不安そうやったし午前中空いとったから代わりに来た」
「腹減ったわー。案外遠いねんな。5時間かかったわ」
「調布やいうからもっと高級住宅街やと思っとったら全然やな」
父ちゃん、それ調布は調布でも田園調布や…。突っ込んだところでもう一回腹減った、と呟いてお昼に出ていった。ごはんどころがないか尋ねるためにナースステーションで調布ネタを披露してしっかり笑いをとったのが聞こえてきた。

千客万来
と、入れ替わりにやってきた見たことのない私より少し上ぐらいのお兄ちゃんとお父さん。車を運転していた人だった。ほんっとに申し訳ない…!と何度も何度も誤ってくださる。逆にこちらが申し訳なくなる勢い。悪意のない、本当に善良な方々といった印象だった。
お二人が帰られた後、今度は見覚えのある顔がやってきた。勤務先の長身おじさまコンビ、グレイ氏と偏食氏!近いと思って母に病院名も伝えてもらうようお願いしておいて大正解。
「一応僕午前中に電話したんだけどね。お応えできませんってことだったから」
と、わざわざ足を運んでくださったらしい。どういうわけか自転車で事故に遭ったという話になっていたので訂正しておいた。
そしてお二人が帰り、入れ違いに父が食事から帰ってきた。もうダメ。昨日の晩から1週間分ぐらい喋ってる…!

携帯、到着
父が保険の話がしたいからと運転していた方を呼び戻したりなんやかんやあったけれども、とりあえず一段落ついたので必要なものをとってきてくれるという。携帯。iPod Touch。Pocket Wi-Fiと各充電器…ぐらいあればなんとかなるか?あとは歯ブラシと。ざざっとそれぞれの特徴と想定される置き場所をメモしてお願いする。
1時間ほど経って、父は戻ってきた。受け取った袋がやたら重いのはなぜだ。
「見つけられんから、とりあえず目についたもん全部持ってきた」
お願いした携帯、iPodTouch、Pocket Wi-Fiの他、iPodnano、海外旅行用変圧器、デジカメバッテリーの充電器…そしてバッテリーを外して作業していたLET'SNOTEが入っていた…作りかけだった、保存していない諸々よ、さらば…。そして携帯とPocket Wi-Fiの充電器は、申告の通り見つからなかったのか入っていなかった。
「部屋汚いな」
バナナを食った後の皮やら何やら床に放置しておくお前に言われたくないわ!というツッコミをぐっと飲み込んで、1Fの売店に携帯用充電器を探しに行ってもらい無事ゲット。
16時前に、父は帰っていった。帰った後で、歯ブラシがまんまと忘れ去られていることに気がついた。

グレイ氏をパシらせる
18時前に携帯が鳴った(注記しておくと、この病院は病棟内はマナーモードが基本でメールOK、大部屋での通話はご遠慮ください、というのが公式ルールであった。しかし皆整形外科でちょくちょくベッド上安静の人が来るため、とりあえず大きい声では喋らない、ぐらいの配慮でみんな使っていた)。グレイ氏からである。
「何か足りないもの、ある?」
私はこういうとき遠慮する子ではなかった。歯ブラシと筆記具をお願いします!と伝えたところ、
「暇つぶしは?雑誌とか…」
至れり尽くせり。本当にいい上司を持った。結局適当なチョイスをお願いして、差し入れていただいた。

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各所に連絡も行き、この日が一番慌ただしかったように思う。叫び疲れ・喋り疲れで、差し入れてくださったグレイ氏ともさほどコミュニケーションをとれなかった。
加えて、このあたりからIN/OUTも問題になってきたように記憶している。INは飲料水の問題。この2日後に切れて困ったので、この日父かグレイ氏に調達してもらったはずだ。OUTは排泄の問題。ベッド上安静だが、前夜上がった腰が上がらなくなったのでバルーンカテーテル+オムツのコンボとなった。

怒涛の2日目が終わり、ひたすら寝るだけの日々が始まる。襲いかかる新たな苦行に夜中呻くはめになろうとは、この時思いもしなかったのであった。

(つづく)