好き嫌い

 割となんでもよく食べる、ように思う。ご多分に漏れず小さい頃は野菜や苦いもの・辛いものが苦手だったが、大人になるにつれ好みがかわって食べたいと思うようにもなったし、長じたプライドというものもあり絶対に箸をつけないということはなくなった。
 でも正直な話、苦瓜はどうにも苦手です。ごめんなさい。
 かといって甘いものが好きかと言うと、そういうわけでもない。おやつはどちらかというとせんべいやおかきといった塩気の利いたものの方が好きだし、昼食も菓子パンよりおにぎりといった塩梅である。母もおやつに関しては塩気派だったので、家にあるおやつも甘いチョコレート菓子よりはビスケット等が多かったように思う。今でもあまり甘いものが好きとは言えないが、仕事中にエネルギー不足を感じたときにはチョコレートなど重宝している。

 最近の食を思い返すと、「これが好きだから作って食べよう」「これが好きだから食べに行こう」という食事がなくてはっとした。好き嫌いに関係せず、ストレスが溜まってがっつり食べたいという欲に負けていたりあるいはお財布や時間や手間の都合上簡素にすませたりのどちらかしかない。
 基本的に簡単なイタリアンが好きだ。ピザはちょっと手がかかるけれど、スープやパスタなら割と簡単に自分で作って食べられるからよくトマトソースやミネストローネを作っていたように思う。食べに行くなら生地が薄めでおいしいモッツァレラの載ったマルゲリータが食べたいし、できることなら少し洒落た前菜なんかも頂きたい。
 あるいは日本食でもいい。もちろん代名詞の寿司は大好きだけれど、普段食べるなら家庭の肉じゃがや鮭の塩焼きといった普通のごはんがいい。それに青物のおひたしと、これからの時期は小葱やおろし生姜をのせた冷や奴なんてあると幸せな気持ちになる。あるいは普通に朝ご飯なら、卵焼きと、おつけものと、お味噌汁といった献立で十分だ。
 しかし平日はこれらが十分手の込んだメニューになってしまう。時間も心も余裕がないのだった。書いていて「30分でできるじゃん!自分!!」と一人突っ込みを入れてしまったが、最近特に朝は春眠暁を覚えずしてとにかく布団と愛し合っていたくて結局8時過ぎまで布団を出ることができない。
 書いていて悲しくなったので明日はもうちょっとがんばろうと思う。

 私のように好きなものを食べていない、という人はまあいるかもしれないが、世の中には嫌いなものが多すぎて普通に食べた結果好きなものしかないという人もいる。
 職場にいるKさんという人は、背の高い、笑顔がすてきなおじさんだけれど、最初に好き嫌いを聞いたときは「この人は一体何を食べられるのだろう」と思ったものだった。肉、野菜、ほとんどの魚介が嫌いだという。飲み会のセッティングをするべくうっかり尋ねて固まってしまった私に、私のことを気にしていると何も食べられないから気にしなくていいよ、とKさんは笑って言った。
 外勤時にみんなで昼食に行っても、ピラフに入ってきた肉と野菜をよけて食べる。飲み会のときは必ずポケットに豆菓子を忍ばせてくる。何がそんなに嫌いなのか分からないけれど、もう理屈ではないのだから仕方がない。
 だけど、その分好きな食べ物に関しては情報が豊富なのだ。実際にいくつかお店を教えてもらって行ってみたけれど、どれもほんとうに美味しいお店だった。

 好きを極めるには嫌いを極めなければならないのかもしれない。
 好き嫌いがないというのは今ひとつ面白みがないように思えてきた。