大倉集古館

 東京メトロ南北線六本木一丁目の駅がある泉ガーデンタワーからまずは地上にあがり、小さな高架橋を渡る。次に半ば地中に埋まって存在感のない泉屋博古館分館と意外性のあるスウェーデン大使館が向かい合っている道を左に曲がる。立派な庭を予感させるスペイン大使館の門扉のあたりで右前方に中華風の屋根が見えてくる。それが目的地の大倉集古館である。
 大倉集古館は明治の実業家であった大倉喜八郎氏が創設した日本最初の私立美術館である。そんな時代に創設された美術館であるから関東大震災で被害を受けたものの、耐震耐火の現館にて再開館し戦中戦後を乗り越えて現在もなお開館している。
 辿ってきた道路沿いにあるホテルオークラ別館の前を通り過ぎ、道路を渡って正面の白い建物の壁に沿って10メートルほど歩くとそこが敷地の入り口である。入り口は他に喜八郎氏の息子の喜七郎氏が建てたホテルオークラ本館側にもあるが、たとえ宿泊者であってもぜひ一度はこの別館側から入ることをお勧めする。集古館の敷地の端に口を開けている入り口の真っ正面、反対側の端には大きなベンチがどんと置かれており、そのベンチよりさらに大きな喜八郎氏がどどんと腰掛けて出迎えてくれているからである。また、敷地の右手は本館の車寄せから抜ける車道であるが、左手の集古館側には仏像や仁王像が屋外陳列されているから、大きな喜八郎氏の像とともに入り口に立った瞬間にちょっとしたワンダーランドに踏み入れる覚悟をさせてくれるのだった。
 先日訪れた際には館蔵品展「爽やかな日本美術」を開催していた。ポスターに使われているのは宇田荻邨「淀の水車」で、確かに青が爽やかな、夏すら感じさせる作品である。期待に胸を膨らませながらガラス戸を開け建物の中に入った。この昭和3年に建てられたと言う中国風の建だけでも十分感動ものである。足を踏み入れると階段の踊り場のようになっており、展示室には更に左側の扉を開けて入る。入ってすぐ、展示室の一角にミュージアムショップとチケット売り場が併設されていた。
 さて、館蔵品展とはいうものの、常設しているものが大型すぎて動かせないということもあるようで、割と色々入り交じって展示されている。やはり外せないのは国宝「普賢菩薩騎象像」であろう。写真で見るとずいぶん小さく、また金属光沢があるように見えるが、実物は多分60cmぐらいは高さがあるように思う。経年して今はすっかり渋い色味となっているが元は彩色されており、また截金は部分的に残存している。何より特に仏像に詳しくない人でも「像の上に蓮が重ねられて更にその上に仏様が合掌して座っている」、この謎のバランス感覚には何かしら感想が残るのではないかと思う。「爽やかな日本美術」の一環として展示されたものの中ならば、狩野探幽の「瀑布の図」が一番気に入った。さらりと流れ落ちる滝ではなく、瀑布の言葉通り飛沫をあげる滝。しかし画面の大部分は白く見事な爽やかさであった。
 1階と2階、両方どれだけゆっくり見ても2時間程度だと思われる。帰りにはぜひ、喜八郎氏の銅像と並んで記念写真を。近隣は大使館や官公庁、ビルが建ち並ぶため休日になると休める場所はほとんどないが、特許庁の方まで出ればJTビルの中にタリーズがあったことを付記しておく。

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