レシピ

 おいしいものができあがったとき、人にその作り方を伝える手段。それがレシピである。世の中にはおいしいものを作る達人が普通の主婦層にもごろごろいたらしく、昔は雑誌や書籍にまとめられていたものが今ではインターネットでも検索できるし、更に材料や料理別に再構成してくれる人たちもいて作る側としては至れり尽くせりだと思う。
 レシピを探す限りでは。
 実際に作るとなった途端に前途多難となることは少なくない。
 基本的にレシピを一通り読んで材料は準備しておけば、「分量外」カウンタで撃沈することはないだろう。しかしその準備がまず第一関門となる。切った材料を置いておけるスペースが絶対的に少ないのだ。特にワンルームマンションなどに一人暮らしをしていると玄関開けたらもうキッチンという人も多いかと思う。更にユニットバスへの扉があるお宅もかなりあるはずである。1つ2つならばまだコンロの上にぎりぎりの配置、電子レンジの上に乗せるなどで切り抜けることも可能だろう。しかし4種の具材を順繰りに入れて行かねばならない=それぞれに皿を分けておいた方が確実な場合など、かなりのピンチとなるはずだ。
 更に、これが野菜などある程度形のあるものならまだしも、計量した粉などの場合難易度が一気に上がる。普通の皿に入れておくと飛んでしまう為深さのあるものに入れざるを得ない。ボウルか?丼か?いずれにせよかなりのスペースを占有すること間違いない。
 同じ材料の準備で厄介なのが調味料の存在である。あわせておけ、というのであれば問題ないが、「少々」「ひとつまみ」問題に始まり、わずか5mlの液体をコップに入れた押した挙げ句これまたスペースがないという窮地に陥ってしまう。そそっかしい人であれば調味料の間違いというものも犯しやすいミスである。是非塩と砂糖は舐めてから計量かつ分かりやすい区分けをしておきたいところだが、果たしてそれほどに皿の種類を取り揃えているかどうか…。
 準備をしているうちに置ききれない場合はやむを得ず居間のテーブルに置くはめになる。しかし迂闊に居間のテーブルに置いて大丈夫か?取りに行くときに余裕があるか?こんなことを真剣に考えているとだんだん「どんなミッションインポッシボーだよ」と愉快になってくるが、そういうときに限って何かやらかすのが人の常となので気を抜いてはいけない。すべては美味しく頂く為である。
 そして苦難の果てに火加減もまずまず、それなりに作れたとして実食したとき。予想外にがっかりするあの現象に誰か名前をつけてほしい。まずくはない。まずくはないのだけれど、ちょっと予想していた味ではない。レシピ通りに、色々ごちゃごちゃしながら頑張ったのに…何故…というあの切なさといったらそうそうない。
 おいしいものができあがったとき、人にその作り方を伝える手段。それがレシピである。しかし味の好みは人それぞれということを忘れて作ってしまうと残念なものができあがることを忘れてはならない。
 自戒を込めて。