4週28日の入院を振り返ってみる(~6日目)

*今日はおシモな話ですのでご承知おきの上続きをお読みくださいますようお願いいたします。

便が出ない。

入院も5日目に突入し、ベッド上安静の生活にもすっかり慣れてきた。好きに動けない・風呂に入れないことを除いては、上げ膳据え膳でごろごろしていればいいのでむしろ一人で暮らしているより楽であった。しかし、そんな運動不足な生活は多大な影響をもたらす。食後なんとなく腹痛はくるのだが、決定的には催してくれないのである。

3日目あたりまでは検査があったり一報を受けて見舞いに来てくれた人も多く気が紛れていたが、落ち着いてきた4日目にはかつてない勢いでお腹が張ってきていた。出されたものはきっちり食べているので無理もない。看護師の方々にも心配され(入院中はきちんと尿便の回数を記録する)、とうとう5日目には下剤の処方となった。小さいボトルに入った液体である。
「10滴から15滴ぐらい入れてくださいね。大体12時間ぐらいすれば効いてきますから、朝ごはんか晩ごはんの時に使ってください」
とのことだったので、とりあえず朝10滴、お茶に混ぜて服用することにした。が、力加減をあやまってびゅっ、と勢い良くいれてしまった。何滴分かはわからない。が、まあ苦しめばいいだけだし、と、とりあえずそのまま飲んだ。

昼食を青息吐息でなんとか押し込み、やってきた保険屋になんとか応対し、更に押しこむ夕食。相変わらずなんとなくお腹は痛いけれど、やってこない便意。そうこうしているうちに消灯されてしまった。明日の朝食時にもう一度混ぜてみるか…と思いつつ、食事がぱんぱんに詰まっている感覚が寝苦しく眠れない。

午前一時頃になって猛烈な腹痛がやってきた。痛いけれども楽になれる予兆なのでガッツポーズである。あとはこのまま踏ん張ってすっきりしたらナースコールを押せばいい。
が、出ないのである。
いきんでみてあとちょっと、というところまでいくのだが、先頭にいる硬い便のかけらが出てくれない感じがする。なんとも気持ち悪い。しかし出て行ってもらわないことにはこの腹痛も膨満感もどうにもならない。ううう、と唸りかけるが深夜の大部屋なのでなんとか噛み殺しながら頑張ってみる。

かくして30分ほど頑張ったがどうにもならなかった。浮かぶ脂汗で身体も妙に冷えてくる。もうこうなったらプロに頼るしかない、とナースコールを押した。今夜の部屋担当は、入院時に面倒を見てくれたSさんで、いつもどおりひょうひょうとやってきてくれた。
便が詰まっているのか出ないんです…と眉間にシワを寄せながら訴える私に、Sさんは使い捨ての手袋をはめて直腸に指を突っ込み掻きだすという実力行使に出る。もうすっきりして眠れるなら何でもいいです…!となんとか寝返りをうってトライ。が。
「あー、便が柔らかすぎて無理だわ…無理無理。もうちょっと自分で頑張ってみてー」
Sさんはいつもどおりひょうひょうとしていた。そんなあっさり言われても!頑張るしかないじゃないか!手袋をまとめ私の病衣を直して去っていったSさんを見送り、涙目で再び奮闘する。夜中の大部屋、なんとも孤独な戦いであった。

元々ない腹筋を酷使しひどく疲れてきたのでいっそ眠ろうとするが、もう腹痛が無視できないところまでやってきている。やはりあの下剤の量は多かったのか、一向におさまってくれる気配がない。どうやっても駄目なまま、1時間が経過した。もう一回コールしようか。いやしかしどうしようもなかったみたいだし…どないすればええねん…と、心も折れかけ死に体だった私のところにSさんが様子を見に来てくれた。
「どう?出た?」
駄目です…と息も絶え絶えに訴えたところ、Sさんはもう一人の夜勤者であるNさん(黒艶髪ロングヘアがよく似合う美人)を呼んできた。
「ちょっと痛いかもしれませんけど我慢してくださいね…あとお腹に力入れてください」
このNさんが救いの神となった。無事栓になっていたブツは発見・掻き出され、ちゃんと腸が運動してじょじょに便が下りてきていることも確認してくれた。
「じゃあ、あとまた出たら遠慮なく呼んでくださいね」
にっこりと去っていくNさんの後ろ姿を全力で拝みながら、再度腹痛と戦う私であった。

その後無事自力で排便し、丑三つ時もすぎる頃にようやく少しすっきりした心持ちで入眠。翌日は今まで溜まっていた分が一斉に出ていこうとしたため、日に6度もオムツ交換の手間をかける事になる。むしろ病気じゃないか?大丈夫か?と心配されるほどであった。
ベッド上では今ひとつ踏ん張りが効かないこともあり、下剤にはこれ以降も度々お世話になった。ちゃんと力加減を調整して、10滴厳守で。ただそれも車椅子に乗るようになるまでの話で、たかが椅子に座るだけでも腸は動くのか定期的に便意がやってくるようになった。身体というものは、まったく正直なものである。

とりあえず、もう、二度と便秘にはなりたくない。心からそう思った6日目の朝だった。